情報ラボ > 統計的推測
全部を調べなくても、一部から全体が推測できます。どこまで信じてよいのでしょうか。
本当の割合は隠されています。何人かを選んで聞いてみて、全体を推測してください。
10,000人の集団(1つの四角が1人)。選んだ人が金色の枠で示されます。
それぞれの調査で「この範囲に本当の値があるはず」という幅を計算します。
日本の有権者は約1億人います。内閣支持率を知りたいとき、1億人全員に聞くのは不可能です。しかし新聞社は、1000人程度に聞いただけで「支持率は何%」と発表します。
なぜそんなことができるのでしょうか。その根拠を与えるのが統計的推測です。
調べたい対象の全体を母集団、そこから選び出した一部を標本といいます。標本を調べて母集団の性質を推測する調査方法が、標本調査です。
| 方法 | 特徴 |
|---|---|
| 全数調査 | 全部を調べる。正確だが、費用と時間がかかる |
| 標本調査 | 一部を調べる。速くて安いが、誤差が生じる |
国勢調査は全数調査、視聴率や世論調査は標本調査です。製品の耐久試験のように、調べると壊れてしまうものは、そもそも全数調査ができません。
標本から求めた割合は、母集団の本当の割合とぴったり同じにはなりません。たまたま賛成の人が多く選ばれることもあれば、少ないこともあります。この差を標本誤差といいます。
重要なのは、この誤差がどのくらいの大きさか計算できることです。誤差が避けられないなら、せめてその範囲を示そう、という発想です。
「支持率は42%」ではなく「42%±3%」のように幅で示すのが信頼区間です。よく使われる95%信頼区間は、次の式で求められます。
p は標本での割合、n は標本の大きさです。1.96 という数は、正規分布で真ん中95%にあたる範囲を表しています。
ここは誤解されやすいところです。「本当の値が95%の確率でこの範囲にある」という意味では、厳密にはありません。
正しくは、同じ調査を100回くり返せば、そのうち約95回は本当の値を含むという意味です。本当の値は動きません。動くのは、調査のたびに変わる区間のほうです。
上のツールの2つ目で、この様子が確かめられます。20回の調査それぞれに区間が引かれ、本当の値を含んだものと外したものが色分けされます。20回なら1回程度は外れるはずです。
式を見ると、誤差の幅は n の平方根に反比例します。ここから重要な性質が導かれます。
100人を400人に増やしても、誤差は半分になるだけです。1000人を10000人にしても、精度は3倍強しか上がりません。費用は10倍かかるのにです。
世論調査でよく1000人前後が使われるのは、この兼ね合いによります。1000人なら誤差はおよそ±3%。これ以上増やしても、費用に見合う精度の向上が得られません。
意外に思えますが、母集団が1万人でも1億人でも、必要な標本の大きさはほとんど変わりません。式に母集団の大きさが出てこないことからも分かります。
鍋のスープの味見に似ています。大鍋でも小鍋でも、よくかき混ぜてあれば、味見に必要なのはスプーン1杯です。大事なのは量ではなく、よくかき混ぜること、つまり偏りなく選ぶことです。
標本誤差は計算できますが、かたより(バイアス)は計算できません。そして、標本を増やしても解決しません。
有名な失敗例があります。1936年のアメリカ大統領選挙で、ある雑誌が200万人以上という巨大な調査を行い、結果を外しました。標本が電話帳と自動車登録名簿から集められたため、当時は裕福だった層にかたよっていたのです。同じ選挙で、わずか数千人の調査を行った別の調査機関が正しく予測しました。
この教訓は明確です。数が多くても、選び方が悪ければ当たらない。
上のツールの3つ目で、選び方を変えたときに結果がどうずれるか確かめられます。
かたよりを防ぐ基本が、無作為抽出(ランダムサンプリング)です。母集団のすべての個体が、等しい確率で選ばれるようにします。
「適当に選ぶ」ことではありません。人間が適当に選ぶと、必ず何らかのかたよりが入ります。乱数表や乱数を発生させるプログラムを使い、意図が入らないようにします。
電話調査では、実在するかどうかに関わらず乱数で電話番号を作る方法が使われます。名簿に載っていない人も対象にできるためです。
ニュースで調査結果を見たとき、次の点を確認する習慣が役立ちます。
「A党42%、B党39%」と報じられても、誤差が±3%なら、この差には意味がないかもしれません。数字の背後にある不確かさを読み取ることが大切です。